ある日本語ガイドの場合

Bとは日本人の友人を通じて偶然知り合った。日本語ガイドをしているトルコ人の女の子である。
女の子とはいっても、もう20代後半。トルコ人でそのくらいになるともう結婚して子供もいて「オバ化」が始まっちゃってるひとも少なくないが、おちゃめな話しぶりとかわいい顔立ちのBにまだまだそんな気配はない。
それでも年齢ゆえの落ち着きか、ガイドという職業柄か、はたまた日本留学の経験から日本的な物腰も身に着いているのか、きゃぴきゃぴはしてるけどそつがなく、わたしの苦手な、トルコ人と話していて感じがちなうっとうしさ、というか、面倒くささがない。それに、日本語で話してもトルコ語で話しても、Bのそうした雰囲気は変わらないので、本物。

Bのケイタイが鳴る。ガイド仲間からの電話。
「お客さんがおみやげ買ってくれたんだって。すっごいよろこんでるよ〜」

一昔前、トルコで日本語ガイドなんていったら、もぅ儲かっちゃって儲かっちゃってしょうがなかったらしい。それを元手に、黄金期のガイドたちは家を買ったりビジネスを起こしたりしてるという。
でも今や時代は移り変わり、日本語ガイド苦難のとき。
たとえばBの会社の場合、「ガイド料」の支払いはなく、連れて行ったツアーグループにおみやげ屋やじゅうたん屋でどれだけ買い物してもらえるかにかかってる。そこからコミッションを受け取るわけだ。つまり基本給なし、100%歩合制。とはいえ、日本人観光客のほうも、かつてのように景気いいわけじゃないから、そうそうお財布のひもはゆるめない。
だからBのともだちがわざわざ電話かけてくるくらいうれしいのもわかる。Bのように独身で家族と同居してるような若い子たちだからできる仕事。これで家族を養っていかなきゃならないとしたら、そりゃほとんど無謀とゆーもの。
Bは大学で建築関係を専攻してたというから、そっち方面でまっとうな仕事に就くことだってできなくもないはず。それでも彼女曰く、「やっぱりガイドの仕事はたのしい♪」から、今さらふつうに会社勤めなんて、とても考えられないんだそーだ。

Bといっしょに出かけてお茶したとき、オトコの話になる。
「トルコ人のオトコって、ヤキモチすごいしさぁ、なんでも強制しない〜?剃れ!とかさぁ」とB。
きゃっ いきなりナニぬかすかな、このムスメはっ。
いや、でもねぇ、たしかに日本人的には最初かなり抵抗あるけど、ためしてみたら清潔に保てるし、けっこう快適でクセになっちゃった♪って声も聞くよ〜。
てなことを、オナゴとゆーものは、白昼堂々おしゃれなカフェでおしゃべりしているのであります。

さて、そんな日本人とトルコ人男女の機微にも気を遣るくらいのBだが、男女交際に関しては本人いたってオクテな「箱入り(自称)」だったらしく、はじめて彼氏ができたのも比較的最近のこと。同じくツーリズムにたずさわるひとだったとか。でも、破局。
「も〜オトコなんていらないっ。信じられないっ」
つまり、だまされてた、ってことらしい。お金もいくらかやられちゃった模様。

以前、トルコ人のともだちの両親とイスタンブルのタクシーについて話したことがある。外国人とか旅行者だと、道を遠回りされてむやみに料金メーター上げられるんじゃないかって話だ。
すると、お母さんもお父さんもトルコ人でありながら、しかもちゃんと行き方まで説明したにもかかわらず、思いっきりやられたことがあるという。お母さんの場合はそれ以上なにも言えず遠回りを許してしまったというが、お父さんは黙っちゃぁいなかった。その暴走運転手とあわやケンカになりかけたとか。 そして曰く、
「だから心配しないで。被害に遭うのは外国人だけじゃないんだから」 ・・・うーむ?

Bの話を聞いて、このタクシーの話を思い出す。
悪いやつというのは、いつでもどこでもだれにでも悪いことをしてやろうと企んでいるものらしい。トルコ人だってだまされるんだから、右も左もわからない外国人なら、もっとカンタンにターゲットにされて当然といえば当然か。

「最近すごくいそがしくなってきた!」
Bから届いたメイルにはそう書いてあった。
そりゃよかった。でも仕事ばっかりじゃなくて、新恋人とかできていそがしいんだといいけどネ。

[25.4.2001]